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東京高等裁判所 平成11年(行コ)198号 判決 2000年11月30日

主文

一1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人が、被控訴人に対して、平成九年二月二六日付でした原判決添付の別紙一の文書目録記載の各文書についての公文書部分公開決定のうち、同別紙二の非公開部分目録記載の非公開部分中、出席者の役職名、金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号、事業者(相手方)の社印及び代表者印を除く部分をいずれも取り消す。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その一を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右取消部分にかかる被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審ともに被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

以下のとおり付加、訂正、補充するほか、原判決三頁一〇行目から五四頁三行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決一四頁二行目の「目的」とある次に「又は件名」を加える。

2  原判決二〇頁九行目の「同条」とあるのを「本件条例一一条」と改める。

3  原判決二五頁八行目の「そして、」とある前に「県職員に関する情報は、公務に関する情報であると同時に私生活上の情報でもあるから、このような情報についていかなる範囲で非公開とするかは、立法政策の問頚である。」を、同行の「本件条例においては、」とある次に「その検討の過程において、個人情報について県職員と一般県民とを区別しない考え方が採用され(千葉県における公文書公開制度素案 乙五、千葉県における公文書公開制度について 乙六)、」をそれぞれ加え、九行目の「区別していないこと」とあるのを「区別しないで、個人が識別されるか否かだけを基準として公開、非公開を決することとしている。」と改める。

4  原判決二六頁七行目の次に行を変えて「なお、「千葉県公文書公開条例第一一条第二号又は第三号に該当する情報について公開の特例を定める条例」(以下「特例条例」という。)は、本件公開請求がされた時点では施行されていないから、二号該当性の判断において、特例条例に基づく解釈を採用することはできない。この点は、後記の三号該当性の判断においても同様である。」を加える。

5  原判決三一頁二行目の「組合あわせる」とあるのを「組み合わせる」と改める。

6  原判決三二頁四行目の「支障の生ずると認められるもの」とあるのを「著しい支障が生ずると認められるもの」と改める。

7  原判決三四頁六行目の「会合等も存する。」とあるのを「会合等も存在し、一般に公表は予定されていないし、出席者も公表されることを前提に出席していない。」と改め、これに続けて行を変えて「なお、懇談会は、八号に規定する事務事業のうち交渉に該当する。」を加え、九行目の「件名」とあるのを「支出件名」と改める。

8  原判決三五頁二行目の「会合場所」とあるのを「会合場所(会合の格付を示すものでもある。)」と改める。

9  原判決三六頁四行目の「当局の」とある次に「評価や」を加える。

10  原判決三七頁九行目の「設営等に対する支障が生ずる。」とあるのを「設営等に支障が生ずる。」と改める。

11  原判決四三頁一一行目の「但書」とあるのを「ただし書」と改める。

12  原判決四七頁八、九行目の「関わるものでないのであるから、」とあるのを「かかわるものではないから、」と改める。

13  原判決五三頁四行目の次に行を変えて「八号にいう「実施機関と関係者との信頼関係が損なわれる」場合とは、公にしないことを条件に任意に第三者から提供されたにもかかわらず、信義に反して当該情報を公開し、それによって県の行政目的を達成することができなくなる場合に限られ、単に第三者が不信感をもつような場合は含まれない。」を加え、八、九行目の「問題にしているのでもなく、」とあるのを「問題にしているのではなく、」と改める。

二  当審における控訴人の主張の補充

1  本件文書に記載された食糧費(以下「本件食糧費」という。)は、次の懇談会等の経費として支出されたものである。

(一) 随時行う懇談会等

右懇談会等に該当するのは、各界各分野の人を相手にした儀礼的な懇談会等、あるいは県政全般にわたる施策の方向付け、利害の調整、協力の依頼を目的とした懇談会等であって、実質的に知事又はその補佐及び職務の代理をする副知事(以下「知事等」という。)が主催するものであり、各事業課が主催(予算の執行)する懇談会等とは本質的に異なる。

この懇談会等は、①特定の事務事業のために実施するというよりも、信頼、友好関係を深め、県政全般を円滑に推進するために実施すること、②その出席者は、特定の分野の者全員ではなく、その中の極く一部の者であること、③その予算は、予め具体的な懇談を予測して作成するのではなく、随時、緊急の必要性に対応できるように、一定の金額をもって作成すること、④事務担当者が予め企画立案するものではなく、知事等がその時々の情勢により決定するものであること、⑤右①及び②の事情から、予め公表を予定しているものではないこと、という特性がある。

本件の場合、別紙一「文書目録」のうち一の4ないし10、14ないし37、二の1、2、13ないし20、22ないし25は、右類型の懇談会等にかかるものである。

(二) 行事として行う懇談会等

右懇談会等に該当するのは、知事等が日頃県政に協力している人を分野あるいは職種ごとに分けて招いて、意見交換や懇談を行い、円滑な県政を運営するために実施する懇談会等である。この懇談会等は、①その出席者は、特定の分野あるいは職種の中から選考して決めること、②その予算は、過去の実績等を勘案しながら作成すること、③定例の行事として予定しているが、諸般の情勢により延期又は休止されたり、その出席者の範囲、出席者数、開催場所等が変更されることがあること、④右①の事情から、一部にはよく知られているが、公表を予定しているものではないこと、という特性がある。

本件の場合、別紙一「文書目録」のうち一の2、11ないし13、二の3ないし12、21は右の類型の懇談会等にかかるものである。

(三) 接遇等のための食糧費

接遇等において提供する茶菓の購入費用である。

本件の場合、別紙一「文書目録」のうち一の1、3、38は右の類型の食糧費にかかるものである。

2  本件文書は、以下の理由により、本件条例一一条八号に該当する。

(一) 本件公開請求にかかる支出負担行為支出伝票は、懇談会等の実施日を明らかにしており、懇談会等の名称は当該実施日を基に新聞や県の広報などから容易に推測することができる。そして、懇談会等の名称が分かれば、それに出席した委員等については、県が公表している委員名簿等から直接識別することが可能となり、懇談の相手方が特定の団体の役員である場合には、その団体の名簿から識別することが可能となる。

(二)(1) しかして、随時行う懇談会等に招かれた者は、公表されることを前提に出席していないから、予定していない公文書の公開という形でその出席が公表されると、懇談会等そのものに、ひいてはその主催者である知事等に不信、不快の念を抱き、懇談会等を実施して信頼、友好関係の維持、増進を図るという意義、目的が損なわれるおそれがあるほか、招かれた者が、招かれなかった者との人間関係等に配慮して、以後同様の懇談会等への出席を辞退することになれば、今後懇談会等を実施すること自体が困難になる。また、招かれなかった者は、そのことを知って知事等に不信、不快の感情を持ち、懇談会等を実施する意義、目的が損なわれるおそれがある。

(2) 行事として行う懇談会等についても、随時行う懇談会等と同様に、招待された者を識別し得る情報が公開されると、関係する分野や職種の人達に様々な憶測や推測をさせたり、招待された者のみならず招待されなかった者に不信、不快の感情を抱かせ、その結果、懇談会等を開催する意義、目的が損なわれ、今後の懇談会等の開催に支障が生ずる。

(3) 接遇等のための食糧費の支出件名が公開されると、接遇等の際の茶菓の提供の有無や、提供する茶菓の単価、種類が分かるので、接遇等の相手方に不信、不快の感情を抱かせないよう格別の配慮をしなければならなくなる。

(三) また、右1、(一)及び(二)の懇談会等は、県政の最高責任者であり、県政全般にわたり権限を有する知事等が、政策的ないし政治的課題を調整し、解決するために、適当な時機に適宜の相手方との間で、意見の交換、利害の調整、協力の依頼等をするという意味で、政策的、政治的な側面をも有する。即ち、右懇談会等は、忌憚のない意見交換等を通じて、他では得られない効果、収穫を期待して開催されるのであり、もともと公開を予定していない秘密性の高いものである。

しかるに、その出席者を識別し得る情報が公開されると、懇談会等を実施する意義、目的を損ない、今後の懇談会等の開催に著しい支障を来し、ひいては知事等の県政上の判断に支障を来すことになる。

(四) さらに、食糧費を支出する懇談会や接遇等をいつ、どこで、だれと、どのような内容で行うかは、知事等の裁量に委ねられているが、これらが逐一公開されることになると、知事等は、右(二)及び(三)のような事態が生ずることを懸念して、必要な食糧費の支出を差し控えたり、画一的な支出をすることを余儀なくされることにもなり、適宜必要な懇談会や接遇等をすることを著しく困難にするおそれがある。

第三当裁判所の判断

一  理由付記について

次のとおり訂正、付加するほか、原判決五四頁六行目から五七頁一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五四頁一一行目の「担保するとともに、」とあるのを「担保してそのし意を抑制するとともに、」と改める。

2  原判決五五頁一行目の「理由」とあるのを「公開しない理由」と、一、二行目の、「便宜を与えるためと解される。」とあるのを「便宜を与える趣旨に出たものと解される。」と、五行目の「十分ではないが、」とあるのを「足りないが、」とそれぞれ改め、九行目の「公文書は、」の次に「平成八年一月一日から同年一二月三一日までの間の」を加える。

二  本件非公開部分の二号該当性について

1  二号の趣旨、内容について

(一) 証拠(乙一、三ないし六、八、一〇、一三ないし一五、原審証人P1)によれば、本件条例及び二号の制定趣旨ないし検討経過等は、次のようなものであることが認められる。

(1) 千葉県は、昭和五八年四月、総務部長を委員長、総務部次長を副委員長、各部主管課長等関係二四課(室)長を委員とする千葉県情報公開研究委員会を設置し、昭和六一年三月まで、情報公開制度全般にわたる問題点を整理、研究し、その間の昭和五九年三月、「千葉県情報公開研究委員会報告(中間報告)」(乙四 以下「中間報告」という。)を発表した。

中間報告では、①プライバシーの保護に関して、(A)千葉県が有する文書の中には個人に関するものも極めて多く、その運用を誤ればプライバシーの侵害のおそれもあり、県民への情報開示を原則としながらプライバシーの保護の要請とどう調和をとるのかが検討されなければならないとした上で、(B)情報公開制度を実施するに当たっては、プライバシーに関する情報は非公開を原則として最大限に保護されなければならないこと、(C)本来、プライバシーの保護は、情報公開とは別の目的があり、情報公開制度の中にプライバシーの権利を具体的に明記することは困難であって、プライバシーの保護は別途多面的に検討することが望ましいこと、②プライバシーの侵害を防止するために、(A)特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開とし、公開できる情報をただし書で除外する方法をとるべきか、(B)条例で「通常他人に知られたくない個人に関する情報」という適用除外事項を設け、規則で具体的に非公開とすべき情報の判定基準を示す方法をとるべきかなどについて更に検討を要すること、③県職員の個人情報については、(A)県職員の公的性格からプライバシーの保護に一定の制約を加えるべきではないかという考え方と、(B)県職員の職務執行上の行為についてはプライバシーの概念を持ち込むべきではないが、県職員も私人としては一般県民と異ならず、差を付けるべき合理的理由は見当たらないという考え方があり、更に研究する必要があること、などの提言をしている。

(2) 次いで、千葉県は、昭和六一年一一月、副知事を委員長、関係部局の長を委員とする千葉県情報公開準備委員会を設置し、情報公開の制度化に向けて実務的な検討を加え、昭和六二年四月に「千葉県における公文書公開制度素案」(乙五以下「素案」という。)を発表した。

素案では、①県が保有する公文書を原則として公開することとする一方、個人のプライバシーは最大限に保護するとした上で、②公開することが適当でない公文書の範囲について、(A)千葉県の保有する公文書には多種多様の性質、内容のものがあり、原則公開の理念を持つ公文書公開制度の下においても、公開することが適当でないものもあること、(B)公開することが適当でない公文書の範囲を定めることによって、請求権者の公開を求める権利の内容を明らかにし、個人、法人又はその他の団体の権利、利益の保護との調和を図ることは、この制度が有効に機能する上で極めて重要であること、(C)公開することが適当でない公文書の範囲は、必要、妥当なものとして、できる限り類型化し、具体的に明示することとする旨述べ、③(A)個人に関する情報で、特定個人が識別され、又は識別され得るものについては、プライバシーの保護に万全を期すべきであること、(B)しかし、個人情報のうちには、明らかにプライバシーの侵害に当たらないものや、公益上の必要性から公開すべきものもあるとして、本件条例一一条二号ただし書イないしハと同内容の事項を挙げている。

(3) その後、千葉県は、昭和六二年五月二七日、千葉県の各界を代表する学識経験者等で知事の委嘱する二〇名の委員による千葉県公文書公開懇話会を設置し、六か月にわたり、素案を基に、公文書公開制度の基本的な在り方、制度化に関する主要な問題点等についての検討を行い、同年一一月、「千葉県における公文書公開制度について―提言―」と題する書面(乙六 以下「懇話会提言」という。)をまとめた。

懇話会提言では、①千葉県の保有する公文書は原則として公開し、例外的に非公開とするものは必要最小限のものとし、その内容は具体的かつ明確に定める必要がある、②個人に関する情報は原則として非公開とし、その保護については十分に配慮する必要がある、③個人のプライバシーは最大限に保護されなければならないが、プライバシーの内容、範囲が必ずしも明確でないため、原則として「特定個人が識別され、又は識別され得る個人に関する情報」を非公開とするが、明らかに個人的法益の侵害に当たらないものや、公益上の必要性から公開すべき場合もあるので、その場合には、公開することが適当である、と提言している。

(4) こうした準備、検討を経て、昭和六三年三月二八日に、県民の公文書の公開を請求する権利を創設した本件条例が公布され、同年一〇月一日に施行された。

そして、千葉県は、同年九月一日付けで「千葉県公文書公開条例解釈運用基準」を制定し、その後平成五年三月三一日に一部改正をした(乙一五 以下、改正後の右運用基準を「本件条例解釈運用基準」という。)。

本件条例解釈運用基準では、①本件条例三条の「個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう」の趣旨について、公開を原則とする公文書公開制度の下においても、個人のプライバシーは最大限に保護されるべきであり、正当な理由がなくして公にされることがあってはならず、プライバシーの保護は個人の尊厳にかかる基本的人権の一つとして認められるものであり、本件条例の基本理念の一つであると解説し、②二号の趣旨について、(A)基本的人権を尊重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のブライバシーを最大限に保護するために定めたこと、(B)プライバシーに関する情報の範囲は明確になっていないため、二号では、広く個人に関する情報について、特定個人が識別され、又は識別され得る情報を公開しないことができることとしたこと、(C)二号ただし書は、明らかにプライバシーの侵害に当たらないもの及び公益的理由のあるもののうち特定のものについては公開しなければならないとしたこと、(D)二号の解釈及び運用に当たっては、本件条例三条の規定の趣旨を十分尊重し、特に慎重に取り扱わなければならない、と説明している。

(5) 被告は、平成九年一月の千葉県定例県議会において、二号は、基本的人権を尊重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定めているが、プライバシーの具体的な内容や範囲は人によって異なり、プライバシーに該当するか否かを判断することが極めて困難であること、しかし、プライバシーがいったん公開されてしまった場合には、回復し難い損害を個人に与えてしまうので、万全を期するため、個人情報であって、特定個人が識別され、又は識別され得るものを非公開としたこと、したがって、公開、非公開の基準は、特定個人が識別されるか否かであり、プライバシーに該当するかどうかではない旨の答弁をしている(乙八)。

(6) 千葉県は、平成九年一二月一九日、特例条例(甲四、乙一〇)を公布した。

特例条例二条は、実施機関の事務事業をより明らかにするために必要な情報を公開することにより、県民の県政に対する理解と信頼を一層深めることを目的として、本件条例一一条二号に該当する情報のうち、①実施機関の職員の職務の遂行にかかる情報に含まれる当該実施機関の職員の所属名及び職の名称その他職務上の地位を表す名称並びに氏名(一号)と、②実施機関の経費のうち食糧費の支出を伴う懇談会、説明会等にかかる情報に含まれる出席者の所属団体名、所属名及び職名等並びに氏名(二号)を公開する(公開することにより、当該個人の権利利益が不当に侵害されるおそれがあると認められるものを除く。)としている。

なお、特例条例四条は、右二条の規定により特に公開するものとする情報が本件条例一一条各号(二号及び三号を除く。)のいずれかに該当する情報である場合には、当該情報を公開しないことができるとし、特例条例附則二条は、特例条例は、その施行の日(平成一〇年四月一日)以後に決裁、供覧等の手続が終了した公文書(支出負担行為その他債務を負担する行為に関連する行為にかかる公文書にあっては、当該支出負担行為その他債務を負担する行為について同日以後に決裁をしたものにかかる公文書)について適用するとしている。

(二) 以上認定したところにかんがみると、二号は、個人のプライバシーは、公文書情報公開制度の下においても最大限に保護されなければならないとの理念に基づいて、情報公開とプライバシー保護との調和を図る規定であるが、プライバシーの内容、範囲が必ずしも明確でないため、プライバシーの概念によって公開、非公開を決することが困難なことから、個人の識別可能性の有無によって公開、非公開を決することとし、当該公文書情報が個人に関する情報であって、当該公文書情報から直接又は当該公文書情報と一般人が入手し得る他の情報とを組み合せることにより特定の個人を識別することができるときは、明らかに個人的法益の侵害に当たらない情報及び公益上の必要性から公開すべき情報(二号ただし書イないしハ)に該当する場合を除き、一律に非公開とすべきことを定めた規定であると解される。

そして、右の基準は、プライバシーの保護に万全を期し、大量の公文書情報の公開請求に対して迅速かつ的確に対応するための合理的な選択の結果であるということができる。

(三)(1) 被控訴人は、千葉県民の情報公開請求権は、憲法二一条に基づく知る権利及び同一五条の参政権を保障するために設けられたものであり、本件条例一条及び三条も公文書の公開を原則としているから、本件条例一一条各号は厳格に解釈、運用すべきである、また、同条の「公開しないことができる」とは公開義務を免除したものにすぎず、非公開にしなければならないものではないと主張する。

しかし、前記(一)で認定したところに照らせば、本件条例は、県民に公文書の公開を請求する権利を創設し、公文書の公開を原則とすることを基本理念としているが、他方、個人のプライバシーの保護を最大限に尊重するという基本理念をも掲げており、両者の調和を図るために、公開を原則としながら、本件条例一一条に非公開情報を定めたこと、したがって、公開を請求された公文書が非公開情報に該当するかどうかについては適正かつ慎重に判断されなければならないが、当該情報が非公開情報に該当する以上、実施機関は、当該情報を公開しないことができるのみならず、非公開としなければならないことが明らかである。被控訴人の右主張は、以上の説示に反する限度で、採用することができない。

(2) また、被控訴人は、県職員の個人情報は、二号の「個人に関する情報」には含まれないと主張する。

しかし、前記(一)に認定説示したところ及び証拠(乙4、一三、原審証人P1)によれば、県職員に関する個人情報について、情報公開研究委員会において、県職員の公的性格からプライバシー保護に一定の制約を加えるべきではないかという考え方と県職員の職務執行上の行為についてはプライバシーの概念を持ち込むべきではないが、県職員も私人としては一般県民と異ならず、差を付けるべき合理的理由は見当たらないという考え方とが検討された後、最終的に県職員の個人情報を二号の「個人に関する情報」から除外するのは適当ではないとの結論が採られ、本件条例が制定、公布されたことが認められる(本件条例一条、三条、一一条参照)。このことは、本件条例の公布後に公布された特例条例が、二号に該当する情報のうち、公開する二とによって当該県職員の権利利益が不当に侵害されるおそれがあると認められるものを除き、県職員の職務の遂行にかかる情報に含まれる当該県職員の職名等及び氏名を公開する規定(特例条例二条一号)を創設したことにかんがみると明らかである。したがって、二号は、「個人に関する情報」であれば、県職員であるか私人であるかを問わず、当該情報が「個人に関する情報」であって特定個人が識別されるか否かによってその適用の有無を決することとした規定であって、被控訴人の右主張は、採用することができない。

2  二号にかかる本件非開示部分

引用にかかる「前提となる事実」の5及び証拠(甲二、乙一二、原審証人P2)並びに弁論の全趣旨によれば、本件の場合、二号該当を理由として非公開とされた部分は、①出席者の所属団体及び役職名(出席者個人の氏名は記載されていない。)と②会議等の名称、目的又は件名であることが認められる。

3  各情報の二号該当性について

そこで、前記1で認定説示した二号の判断基準に基づき、二号にかかる本件非開示部分の適否について検討する。

(一) ①出席者の所属団体及び役職名の二号該当性について

出席者の所属団体名自体は、個人に関する情報ではなく、また、所属団体名のみをもって直ちに特定個人が識別され、又は識別され得るということはできない(ある団体の構成員全員が出席する場合には、所属団体名が判明するとその各構成員を識別することが可能となるが、本件で問題となっている懇談会等はある団体の構成員全員が出席するものでないことは、控訴人において自認している。)。

しかし、所属団体名に加えてその役職名が判明すると、当該役職者が一人である場合には、容易にその者が識別され得るし、当該役職者が複数いる場合にも、当該団体の名簿等一般人が通常入手し得る情報と照合することによって特定個人が具体的に識別され得るということができる。そして、この役職名が二号ただし書に該当しないことは明白である。

そうすると、出席者の所属団体名を二号本文に該当する情報として非公開とした本件処分は違法であるが、役職名を二号本文に該当する情報として非公開とした本件処分は適法である。

(二) ②会議等の名称、目的又は件名の二号該当性について

控訴人は、会議等の名称、目的又は件名が開示されると、当該会議等に出席し得る立場の者の中から特定の個人名を推認し、識別し得る場合があると主張する。

しかし、右主張にかかる識別可能性は抽象的な可能性の範囲に止まるところ、このような場合も二号に該当するというと、識別の可能性が完全に否定できない場合は全て二号に該当するということとなるが、そのような解釈は、本件条例における基本理念及び二号の制定趣旨に反するから、採用することができない。

そして、他に会議等の名称、目的又は件名から、その出席者が特定され、識別され得ることを認めるに足りる根拠はない。

したがって、右各情報を二号に該当する情報として非公開とした本件処分は違法である。

三  本件非公開部分の三号該当性について

1  三号の趣旨、内容について

(一) 証拠(乙一、四ないし六、一〇、一五、原審証人P1)によれば、三号の制定趣旨及び検討経過は、次のようなものであることが認められる。

(1) 中間報告では、①(A)企業等(事業を営む個人を含む。)に関する情報は原則として公開の対象となること、(B)しかし、企業等に関する情報には営業情報、技術情報、金融情報、組織運営情報など種々の情報があり、これらの情報を公開することによりその正当な活動に不利益を与えることがないように、その一部については非公開とする必要があること、(C)もっとも、企業等の事業活動により住民の生命、身体、健康等に危害、損害を与えるおそれがある情報については、公益上の立場から非公開とすることができないとの基本的な考え方を示し、②非公開とすることができる情報(企業等の正当な活動に不利益を与える情報)の具体例として、(A)企業等の生産、販売上のノウハウ等の当該企業独自の技術情報で、知られることにより、自由競争上不利な立場に立たされ、不利益又は損失を生じるおそれのある情報、(B)企業等の経理、人事等の情報(法令で公開義務のあるものを除く。)で、一般に知られたくない企業の内部情報(人事、労務、財産管理に関する書類、内部監査書、外部検査書等)、(C)企業等の内部事件等(社会的影響のあるものを除く。)の情報で、知られることにより、企業等のイメージダウン(信用上不利益)となる情報(不祥事事件報告書等)を挙げている。

(2) 素案では、前記二、1、(一)、(2)の①、②記載の基本的な考え方の下に、(A)公開することが適当でない事業活動情報は、公開することにより、企業等の競争上の地位、事業運営上の地位、社会的地位、その他正当な利益を害すると認められるものとする一方で、(B)ただし、人の生命、身体、健康、生活等を保護するために必要とする情報は公開すべきであるとして、本件条例一一条三号ただし書イないしハとおおむね同内容の事項を挙げている。

(3) 懇話会提言では、事業活動情報について、①現在の社会機構は、企業等に自由な経済活動と適正な競争原理を保障していること、②したがって、自由な事業活動を阻害したり、事業活動によって生ずる正当な利益を損なうような情報は、非公開とすることが適当であること、③しかし、企業等の事業活動情報であっても、県民の生命、健康、生活などを保護するために必要な場合には、公開することが適当であると提言している。

(4) 本件条例解釈運用基準では、①三号の内容について、(A)「当該事業に関する情報」とは、営利を目的とすると否とを問わず、事業内容、事業所、事業用資産、事業所得等に関する情報(当該事業とは直接関係のない個人に関する情報は除く。)をいい、(B)「競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え」ると認められる情報とは、生産技術上のノウハウに関する情報、販売、営業上のノウハウに関する情報及び経営方針、経理、人事等事業活動を行う上での内部管理に属する情報などであって、公開することにより、当該企業等の事業に不利益を与えるものをいい、(C)「社会的信用を損なうと認められるもの」とは、企業等の名誉、社会的信頼、社会的評価等に関する情報であって、公開することにより、これを損なうことになるものをいうとそれぞれ説明し、②三号の運用に関して、(A)「競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与え、又は社会的信用を損なうと認められる」情報に該当するかどうかは、当該情報の内容のみでなく、当該企業等の事業の性格、規模、事業活動における当該情報の位置付け等にも十分留意しつつ、慎重に判断する必要があり、その判断が難しいものについては、公開した場合における不利益の有無等について当該企業等からの意見を聴取する(本件条例九条一項)など事前に十分調査を行うこととし、(B)具体的に、(a)法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報、(b)実施機関が作成し、又は収受した情報で、公表を目的としているもの、(c)企業等がPR等のために自主的に公表した資料から何人でも知り得る情報、(d)事業の秘密に属する情報であっても、統計のように素材が処理、加工され、結果として個々の企業等が識別できなくなっているものはこれに当たらず、公開することができるとし、(C)三号ただし書に該当するかどうかの判断は、十分調査した上、客観的に行うこととしている。

(5) 特例条例三条は、前記二、1、(一)、(6)第二段冒頭記載の目的の下に、三号の規定にかかわらず、さらに、①実施機関の経費のうち食糧費の支出にかかる債権者の名称又は氏名及び主たる事務所の所在地、②実施機関の経費のうち一般常用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に対する使用料及び賃借料の支出にかかる債権者の名称又は氏名及び主たる事務所の所在地に該当する情報(公開することにより、当該企業等の権利利益が不当に侵害されるおそれがあると認められるものを除く。)は、公開するとしている。

なお、右三条の例外及びその対象となる公文書に関して、前記二、1、(一)、

(6) 第三段記載のとおり、特例条例四条及び特例条例附則二条の規定の適用がある。

(二) 以上認定したところにかんがみると、三号は、企業等の事業内容、事業所、事業用資産、事業所得等に関する情報であり、かつ、それが生産技術上のノウハウに関する情報、販売、営業上のノウハウに関する情報及び経営方針、経理、人事等事業活動を行う上での内部管理に属する情報などであって、公開することにより、当該企業等の事業に不利益を与えるもの、又は当該企業等の名誉、社会的信頼、社会的評価等を損なうものについては、一律に非公開とすることを定めた(公益上の必要性から公開すべき情報(三号ただし書イないしハ)に該当する場合を除く。)規定であると解される。

2  三号にかかる本件非開示部分

引用にかかる「前提となる事実」の5及び証拠(甲二、乙一二、原審証人b)並びに弁論の全趣旨によれば、本件の場合、三号該当を理由として非公開とされた部分は、①相手方の住所、氏名、②口座情報(金融機関名、口座名義人、預金種目、口座番号)、③相手方コード及び技番、④検査場所、⑤納入者又は請負者、⑥契約履行の場所、⑦契約の相手先、⑧社印及び代表者印、⑨開催場所であることが認められる。

3  各情報の三号該当性について

そこで、前記1で認定説示した三号の判断基準に基づき、三号にかかる本件非開示部分のうち控訴人から不服申立てのあった①、③ないし⑦、⑨について検討する。

(一) ①相手方の住所、氏名、⑤納入者又は請負者、⑦契約の相手先の三号該当性について

右の各情報は、いずれも本件懇談会等において飲食物を提供した事業者の氏名又は住所の情報であり、これが開示されると当該事業者が特定されることになる。しかし、事業者が特定され、これと他の開示されている情報とにより明らかになるのは、当該事業者が提供した料理や飲物等の種類、売上単価、数量、合計金額等にすぎないが、これらは、当該事業者の販売、営業上の秘密やノウハウに関する情報に当たるということはできないし、経営方針等の内部管理に関する情報に当たるというにも躊躇される上、公開することにより当該事業者の事業に不利益を与えたり、その社会的評価等が損なわれるとは認め難い。

したがって、右の各情報はいずれも三号に該当しないから、これを三号に該当する情報として非公開とした本件処分は違法である。

(二) ③相手方コード及び枝番の三号該当性について

右情報は、千葉県がその財務システムにおいて管理保有する事業者の識別番号であり、事業者自身が管理保有している内部情報ではない。そして、この情報が公開されることにより明らかになり得るのは、当該事業者名にすぎず、それ以上の情報等が明らかになるとは認め難い。

したがって、右情報は、三号に該当しないから、これを三号に該当する情報として非公開とした本件処分は違法である。

(三) ④検査場所、⑥契約履行の場所、⑨開催場所の三号該当性について

右の各情報は、本件懇談会等が実施された場所を明らかにする情報であるが、これが事業者の販売、営業上の秘密やノウハウに関する情報あるいは経営方針等の内部管理に関する情報に当たるとはいえないし、公開されたとしても、当該事業者の事業に不利益を与えたり、その社会的評価等が損なわれるとは認め難い。

したがって、右の各情報はいずれも三号に該当しないから、これを三号に該当する情報として非公開とした本件処分は違法である。

四  本件非公開部分の八号該当性について

1  八号の趣旨、内容について

(一) 証拠(乙一、四ないし六、一五、原審証人P1)によれば、八号の制定趣旨及び検討経過は、次のようなものであったことが認められる。

(1) 中間報告では、行政情報について、①情報公開制度の実施下にあっても行政の公正、円滑な執行が図られなければならず、そのための配慮が必要であること、②しかし、行政の円滑な執行を理由にいたずらに非公開情報の範囲を拡大することは避けなければならないことを指摘している。

(2) 素案では、公開することが適当でない行政執行情報として、取締り、監査、立入検査、許可、認可、入札、交渉、争訟などにかかわる情報で、公開することにより関係当事者間の信頼関係が損なわれるもの及び当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正、円滑な執行に支障が生ずるものを挙げている。

(3) 懇話会提言では、①行政執行情報については、「実施機関が行う事務事業のうち、交渉、取締り、立入検査、監査、争訟、入札、許可、認可等にかかる情報で、事務の性質上公開することにより、関係当事者との信頼関係が損なわれたり、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の実施の目的が失われたり、公正、円滑な執行に支障が生じたりするおそれがあるもの」とし、②その説明として、千葉県が行う事務事業の中には、用地買収、検査、監査、入札等事務事業の性質上、公開することにより関係当事者との信頼関係が損なわれたり、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の実施の目的が失われたり、公正、円滑な執行に支障が生じたりするおそれがあるものもあるので、これらの情報(例えば、用地買収交渉記録、各種の検査監査計画書、入札予定価格調書等)は公開しないことが適当であるとしている。

(4) 本件条例解釈運用基準では、①八号は行政の事務事業の実施段階に関する情報を対象としていること、②八号の内容について、(A)「事務事業」とは、実施機関が行うすべての事務事業(組織、人事、財産管理等いわゆる内部管理にかかる事務事業を含む。)をいい、規定中に例示されている事務事業は代表的なものを列挙したものであること、(B)事務事業に「関する情報」とは、当該事務事業に直接かかわる情報のみならず、当該事務事業の実施に影響を与える情報も含まれること、(C)「関係者との信頼関係が損なわれる」とは、公にしないことを条件に任意に第三者から提供された情報のように、公開することにより、県と第三者との間における信頼関係が損なわれる場合をいうこと、(D)「事務事業の実施の目的が失われる」とは、事務事業の性質上、それらに関する情報を公開すれば、事務事業の目的に沿った成果が得られず、実施する意味を喪失する場合などをいうと説明し、③請求にかかる情報が八号に該当するかどうかについては、その危険の有無、程度等を客観的に検討して判断することが必要であると指摘している。

(二) 以上認定したところにかんがみると、八号は、実施機関が行う事務事業の実施段階に関する情報であって、その事務事業の性質上、公開することにより、関係者との間の信頼関係が損なわれるもの、事務事業の目的に沿った成果が得られず、実施する意味を喪失するおそれがあるもの及び当該事務事業及び将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に著しい支障が生ずるものは、これを非公開とすることを定めた規定であると解される。そして、右の判断は、客観的かつ個別具体的に行わなければならず、実施機関の主観によってこれを決することはできないというべきである。

2  八号にかかる本件非公開部分

引用にかかる「前提となる事実」の5及び証拠(甲二、乙一二、原審証人P2)並びに弁論の全趣旨によれば、本件の場合、八号該当を理由として非公開とされた部分は、①会議等の名称、目的又は件名、②出席者の役職名、③開催場所、④相手方の住所、氏名、⑤検査場所、⑥納入者又は請負者、⑦契約の目的、⑧契約履行の場所、⑨契約の相手先であることが認められる。

3  各情報の八号該当性

(一) 次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決八五頁三行目から九二頁六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決八五頁三行目冒頭の「イ」を「(1)」と改め、八六頁二行目冒頭の「ウ」、八九頁一〇行目冒頭の「エ」及び九一頁二行目冒頭の「オ」をいずれも削除する。

(2) 原判決八七頁二行目の「出席者等の外形的事実」とあるのを「出席者の所属団体及び役職名、開催場所等の外形的事実」と、四、五行目の「推知されるものとはいえず、」から八行目末尾までを「推知されるということはできない。しかも、控訴人の右主張は、これらの情報によって出席者が特定されることを前提としていると解されるが、さきに認定説示したとおり、出席者の役職名は二号に該当する情報として非公開とされるから、本件の懇談会等の外形的事実が明らかにされるからといって、関係者との信頼関係が損なわれ、事務事業の円滑な執行に著しい支障が生じるということはできない。」とそれぞれ改める。

(3) 原判決八八頁四行目の「考えられるものの、」から、八九頁二行目までを次のとおり改める。

「考えられるが、他方、単なる打合せや功労のあった者を公に慰労等するような懇談会等については、そのような支障が生ずるおそれがあるということはできない。そうすると、本件非公開部分を公開することにより右のようなおそれがあるというためには、控訴人の側で、当該懇談会等が特定の事務事業の計画や執行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件非開示部分自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方や懇談の具体的な目的、内容が明らかになる可能性があることを主張、立証する必要があるというべきである(最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決・民集四八巻二号二五五頁参照)。

付言すると、そもそも食糧費は、さきに認定したとおり行政事務や事業の執行上直接必要なために費消される経費(その予算の執行上の区分は、節「需用費」、細節「食糧費」に属する。)であるところ、本件食糧費も、総務部秘書課において、知事等が職務の遂行上各種関係機関等と協議、意見の交換等をする必要があるために設定した懇談会等の経費等として支出されたものであり(引用にかかる「前提となる事実」の7参照)、その支出の理由及び必要性について秘書課における決裁手続を経て支出されている。このような食糧費は、知事等が、行政の円滑な運営を図るために、関係者との懇談、慶事、見舞い、賛助、協賛、餞別などの対外的な交際事務を行う経費であって、知事等が県と相手方とのかかわり等をしん酌して、個別的、具体的な事案ごとに、その裁量によってその支出の要否や金額等を決定する交際費(その予算の執行上の区分は、節「交際費」に属する。)とは異なる。したがって、知事の交際費にかかる公文書情報が非開示情報に該当するかどうかという問題と同様に考えることはできない(最高裁平成六年一月二七日第一小法廷判決・民集四八巻一号五三頁参照)。)

(4) 原判決八九頁三行目の「しかしながら、」とある次に「右情報のうち出席者の役職名は、出席者を特定し得る情報であるが、二号に該当する情報として非公開とされるし、会議等の名称、目的又は件名は右各事実を特定し得る情報ではないことは、前記二、3で認定説示したとおりであり、その余の情報はいずれも右各事実を特定し得る情報ということはできない。また、」を加え、同行の「この点に関する証人P2は、」とあるのを「この点に関する乙三四(P2の供述書)及び原審証人P2は、」と改める。

(5) 原判決九一頁二行目の「出席者の肩書、」とあるのを削除する。

(二) 控訴人の当審における主張について

(1) 控訴人は、本件非公開部分のうち、随時行う懇談会等及び行事として行う懇談会等は、公表することを前提としていないから、これが公開されて懇談会等の出席者が識別されると、出席者のみならず非招待者にも不信、不快の念を抱かせることとなって、その結果、知事等に対する信頼関係が損なわれ、懇談会等を実施する意義、目的が失われ、また将来の同種の懇談会等の実施に支障が生ずると主張する。

しかし、さきに認定説示したとおり、本件文書に記録されている情報は会議の名称、目的又は件名、会議等の場所、出席者の所属団体等(出席者の役職名は、二号に該当する情報として非公開とされる。)の外形的事実を示すものでしかないし、他にこれらの情報から当該懇談会等の相手方や懇談の具体的、個別的な目的や内容までが明らかになる可能性があることについての主張立証はない(確かに、証拠(甲二)によれば、本件懇談会等への出席者の数(県側の出席者を除く。)は、二名から二三九名までであったことが認められ、本件懇談会等の中には公表を目的としないものないし内密の協議を目的としてされたものがあることがうかがわれないではないが、それ以上の具体的な主張立証はない。)。そうすると、控訴人の右主張は、採用することができない。

なお、控訴人は、接遇等のための食糧費に関する公文書については、八号所定の事由に該当することについて具体的な主張立証をしないから、これについて非公開の事由があるということもできない。

(2) 控訴人は、食糧費を支出する懇談会や接遇等をいつ、どこで、だれと、どのような内容で行うかは、知事等の裁量に委ねられており、これらの情報が逐一公開されると、関係者との信頼関係を損なうなどの支障が生じることを懸念して、必要な食糧費の支出を控え、あるいは支出を画一的にすることを余儀なくされ、適宜の懇談会や接遇等の実施を著しく困難にするおそれがあると主張する。

しかしながら、控訴人は、右の点につき具体的な主張立証をしないから、控訴人の右主張も採用することができない。

五  結語

以上によれば、原審が被控訴人の請求を認容した部分のうち、出席者の役職名を非公開とした部分の取消しを求める被控訴人の請求は理由がないが、その余の部分の取消しを求める被控訴人の請求は理由がある。

よって、本件控訴に基き、原判決を主文のとおり変更することとする。

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 佐藤武彦 裁判官 青野洋士)

<以下省略>

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